蔵書の整理をしていて、あまりに傷んでしまった本は、古本屋にも渡せず、仕方なく処分するしかないなと重ねた本のなかに宇野千代の『生きていく私』があり、片付けの途中に読み耽ってしまった。

直情径行、思い立ったら走り出す、ひとに出会う、夢中になる、顧みつつも熱中する、打ち込む。読んでいて宇野千代の生きていく純粋な姿に打たれ、泣きたくもなり、自分の背筋も正される心地がする。宇野千代は素敵だ。亡くなるまでずっと、素敵だった。

そしてまた自分は、山と積んだ書物からどれ程の感激を得、ひとの誠意や良心、生きていく姿に励まされ続けて来ただろうと考え、書き残してくれた諸作家、書き残さずにいられなかった人びとへの感謝で胸がいっぱいになり、目頭が熱くなる思いがする。

悪にも見えたことも多かったような環境で、人間はそればかりではないと信じたかったから、書物を漁り、手にし、そこに希望を見出してきた長い道のりを思った。必ずしも希望のみを描くことでなく、希望の無いような状況のなかにも、人間の誠意や良心といった美しさを見いだす、という絶え間ない人間の努力に。