サヨナラ、本。

昔、ある男性が、ある時に死のうと決めて、でもなぜか、本を捨てることができなくて、「自分はまだ生きていたいのだなと思った」と振り返って語ってくれたことがあった。「死のうと思っても、なかなか死ねないものだよ」と。それはとても実感のこもった言葉だったから、忘れることができない。そして自分もまた、同じように理解することもできたから。

これまでの人生で何度か、百冊単位で本を処分したことはあった。でもこの量を処分するのは、今回が初めて。既に先日、太宰関連の本を段ボール10箱ほど古本屋に寄贈して、段ボール5箱程の太宰関連本を手元に残した。その他に残す本も、厳選した。でも、その選択が合っているのか、自信がない。一年前なら別の選択をしただろうし、一年後でもそうだろうと思う。おそらくいくつかの本は、再度買い戻すことになる気がするし、二度と手に入らないかもしれない本は、手放したことを後悔もするだろう。

ただ同時に、数多くの素晴らしい本との出会いがあって、大切にそれらを心に留めることができたとしても、そのなかで、自分がずっと変わらず心から好きな気持を抱き続けたり、惚れ込むように愛し続けたり、深く心に刻まれてずっと手放したくないと感じる大切な本は、そう多くないようにも思うのだ。人生に素晴らしいことは沢山あっても、心から確かだと感じることは、そうそうないものだ。迷いなく残すと決められた本は、それ程多くない。

こんなに本を処分して自分は、何も死のうと思っているわけではなく、ただ、身も心もスッキリ生きたいと思っているのです。失った後にはきっと、一抹の寂しさも胸に残るだろうことを知っていても。