田部あつみさんの墓参り

長い間ずっと、いつか行きたいと思っていた田部あつみさんのお墓参りに行ってきた。広島市草津の教専寺にあると聞いていた。訪れてみるとお墓は数年前に移転しており、移転先も分からないとのことだった。

田部あつみさんは、1930年11月28日、数え年19歳(満年齢17歳)のときに、鎌倉の七里ヶ浜で太宰と心中し、彼女だけが絶命した。太宰の「道化の華」「狂言の神」「虚構の春」「東京八景」「人間失格」に描かれる女性だ。彼女のお墓は、10年程前に亡くなられた長篠康一郎氏によって発見された。氏の著書『太宰治 七里ヶ浜心中』に詳しい。

1980年、あつみさんの没後50年目に、長篠氏によって公開された写真がこちら。

長篠先生の他の本には、あつみさんの他の写真もあるが、この写真が最も有名だ。昔、ある男子学生が、この写真を「すごく可愛い」と興奮気味に話していたっけ。この写真が残り、長篠先生の労により私たちの目にするところとなり、本当に良かったと思う。

あつみさんのお墓のあった場所は、今は空き地になっていて、私は長篠先生の本を供えてお参りした。盆の時期、なんとなくあつみさんは、そこに来てくれたような気がした。

初代さん、あつみさん、太田静子さん、山崎富栄さん、林富子さん、美知子さん。私は皆さんのお墓にお参りしてきた。でも本当は、美知子さんには、生前に会えた可能性があった。美知子さんは、あまり外に出られなかったと聞いたことがあるけれど、本当は、ひとめでもお会いしたかった、と思う。美知子さんは、私のような太宰ファンには、会いたくなかったのかもしれないけれど…

昔、長篠先生とご一緒に、船橋の太宰ゆかりの場所を歩いたことがあった。当時私が住んでいた、船橋時代の太宰が通った川奈部薬局から近くの家、そこは昔、母の実家があった場所なのだが、その家にも立ち寄ってくれた。遠く懐かしく、大切な、長篠先生との思い出。