乱歩の土蔵

会社の帰りに急いで、昨日見逃した乱歩の土蔵を見るために池袋に行く。明日が最終日で5時に終わってしまうから、チャンスは今日しかないのだ。昨日、喫茶店「乱歩゜」に持っていった土産の、江戸川乱歩御用達の和菓子屋「三原堂」にも行くつもり。

まず最初に、立教大学構内にある土蔵の公開会場まで行った。雨天だし平日の夜だし、昨日よりは空いているだろうと思ったのに、またもや「待ち時間80分」だって。昨日よりも混んでいる。

そのまま列に並べば、「三原堂」に行く時間がなくなってしまうと思って、駅の方向に引き返して先に店に行くことにした。2階の喫茶店で軽食を頼み、昨日お土産にした「乱歩の蔵」という菓子を買った。

再度、土蔵に行く。相変わらず待ち時間は80分だ。これから来る人も減っているし、最後にゆっくり見ようと開き直って、列に並んだ。大学の講堂で土蔵の復原工事のビデオを見ながら、1時間近く待った。指示があって外に出ると、またそこにも列。うるさい人達がいたから、列から離れてフラフラしていたら、いつのまにか最後尾になっていた。

乱歩旧宅の敷地内に入っても、また列。しかし涼しくなった夜、小雨の中で待つのはそれはそれでいい時間だった。早く見てくださいという、よくありがちな指示を係員が出さないので、それにとても好感を持った。どんなに待ち時間が長くても、一人一人がじっくり見られるほうがいい。

土蔵の他に、旧宅内の乱歩の書斎を庭から見られるようになっていた。書斎は重厚な雰囲気で素敵だった。

係員のおじさんが一人、まだ一度も土蔵の中を見ていないので・・と言って、最後の私と一緒に見学した。ずっと見学者の誘導で忙しかったのだろう。

土蔵は足を踏み入れることはできず、ガラス張りの入口からのぞくだけだが、蔵書がたくさん並んでいて、とても素敵だった。夏目漱石坪内逍遥の全集や、明治大正の文学シリーズなどが見えた。洋書も並んでいた。見学に来た多くの人が思ったと思うけど、私もあんな書庫が欲しい。

土蔵の二階は、乱歩が整理した本や書類が特注の木箱に入れられて丁寧に保管されている。係員によると、立教大学に寄贈された際には、乱歩の本だけでなく、家族の私物も混ざっていたという。要するに土蔵の二階は物置になっていたというのは、とてもリアリティーがある。これほど頑丈な土蔵が庭にあったら、誰でも物置には便利だと思うだろうから。

係員の人に、最後は土蔵の入り口を閉めるのですか、と聞くと、そうだと教えてくれた。重い扉を少し動かしてみた。書籍がこんな頑丈な書庫に保管されているとは、乱歩はよほど本を大事にしていたのだろう。

池袋は、これまで良い思い出があまりない場所だったのだけど、今日は、ほんの少し池袋が好きになったなと、帰り道歩いている時にふと思った。