沼津桜桃忌

安田屋旅館に泊まるのは、今回で四回目。沼津桜桃忌には、去年に引き続き二回目の参加。昨年は、田中英光さんのご子息がゲストとしていらしていたが、今年は主催者の鈴木邦彦さんの講演のみ。

フランスで太宰の映画を作っている人がいて、取材のために来日しているという話を読んでいたのだが、その人たちが沼津桜桃忌に来るという。太宰のファンと話をしたいとのことなので、少し話してもらえませんかと鈴木さんに言われたので快諾。鈴木さんによると、沼津桜桃忌の参加者には、太宰の熱狂的なファンという人はあまり多くないという。熱狂的なファン…確かにそうかもしれないが、自分。

昼食の後、フランスの男性と女性の二人と少し話した。実は、学生の時の第二外国語がフランス語だったのだけど、今ではもう単語10個位しか覚えていなくて、ほとんど役に立たず。フランス語で太宰の話ができる日が来るとは、もっとちゃんと勉強しておけば良かったとつくづく後悔。通訳の女性がいた。

なぜ太宰が好きなのかと聞かれて、最初から返答に窮する。小説が面白いから、わかりやすいからとか、そんな答えではまずいかなぁと思って、「純粋だから」と言ってみたが、浮かない表情だった。「フランスでは、どんな人が太宰を読んでいるのですか?若い人たち?」と聞くと、「あまり読まれていません」。それで「もっと読まれるべきだと思って、映画を作ろうと思ったのです」とのこと。ふうむ。3週間位の滞在予定だそう。

来週、金木に行くと言うと、フランスの人たちは、桜桃忌は三鷹に行って、20日に青森に行くと言っていた。20日は青森に居ますかと聞かれたので、19日に東京に戻ると言った。金木の生誕祭には、津島園子さん(太宰の長女)が来るんですよ、と言うと、彼女とは既に会ったという。

講演の時間になり、後で少し話す時間がありますかと聞かれたので、OKと返事。フランス語が少し分かるのかと聞かれたので、英語が少し話せますと答えた。フランスの人たちは日本語が分からないそうだが、英語が話せた。

講演を聞きながら、フランスの人たちが誰を取材すると良いかなと考えていた。津島園子さんに会ったのなら、太田治子さんにも会った方がいいと思った。太田治子さんのことは知っているかなぁ。斜陽のモデル、太田静子さんが暮していた下曽我の家のことを知らないようだったので、講演中に下曽我の地図を描いた。

講演後、太田治子さんのことを知っているかと聞いたら、既に会ったという。それなら大丈夫、と思った。津島さんの語る太宰と、太田さんの語る太宰では、温度差があるような気がしたのだ。そしてファンに話を聞きたいなら、三鷹で喫茶店を営業している太宰ファンのところに行くと良いと思って、その話をすると、そこにも既に行ったという。かなりの取材力だなぁと感心。三鷹の桜桃忌には、その店にいる予定だそうだ。喫茶店フォスフォレッセンス

安田屋の喫茶で、鈴木さんを交えて綿密な取材。フランスで翻訳された太宰の作品は、『斜陽』『人間失格』と「富嶽百景」などを収めた短編集だが、それらをかなり読み込んでいた。作品の中に何々という言葉がありましたね、等と良く理解していて、太宰に関わった女性についても、ほとんどのことを知っているようだった。作品の主題や、作品に込められた意味などは、私はあまり考えたことが無いので、ほとんどは鈴木さんが話していた。一部、事実と違うと思ったことがあったので、話が終わったあとに少し付け加えたりした。

フランスで出版された短編集に「メリイクリスマス」が入っていたので、このモデルの女性が新宿で「風紋」というバーをやっていますよ、と言うと、聖子さんにも会う予定になっているそうだ。ますます彼らの取材力に感心した。一体フランスにいて、どうやってこんなにマイナーな情報を仕入れたのだろう。聖子さんには風紋で会うのかと聞いたら、お店の始まる前に店で話を聞くと言っていた。お店は安くはないですよと伝えると、どの位かと聞かれたので、1杯2千円位かなと答えた。ルパンにも行ったそうで、高くて驚いたと言っていた。確かにルパンは良い店なのだけど、調子に乗って飲むと会計が怖い店なのだ。

名刺を頂いたので、私も電話とメールアドレスを教えた。金木に行ったら情報を送りますね、と言うと、三鷹の桜桃忌の情報も送りますと言ってくれた。都内で勤めていることを伝えたので、帰国までに何か協力できることがあればいいなと思う。