「小室等の聞きたい、聴かせたい」

新宿カタログハウスにて。前半は、森達也氏のTVドキュメンタリー「放送禁止歌」の上映。後半は、小室等氏と映画監督の森達也氏のトーク

放送禁止歌は、昭和34年に民放連が発足させた「要注意歌謡曲指定制度」に基づくものだが、特に拘束力はなく、守らなくてもペナルティーは無いのだという。昭和58年を最後に新たな指針は出されていないそうで、それらの曲をどのように扱うかは各局に判断が任されているそうだ。ただ、抗議を受ける余裕のなかった頃は、抗議を受ける前に放映を取りやめ、価値判断を放棄したという意味合いもあったそう。

小室等氏と森達也氏のトークでは、小室氏自身が最初に、放送禁止歌に指定された自作の曲を歌ってくれた。いくつかの作品は、私もコンサートで聞いたことがあった。

例えば、「原子爆弾の歌」は、原子爆弾をポケットに入れて歩いたら、新宿紀伊国屋で爆発して紀伊国屋が吹っ飛んだ、池袋の西武デパートで爆発して吹っ飛んだ、渋谷の忠犬ハチ公が吹っ飛んだという歌詞なのだが、放送禁止歌に指定された後、小室氏は、紀伊国屋西武デパートに直接聞きに行ったという。西武デパートでは、構いませんという返事をもらい、紀伊国屋でも構わないということだったが、ただし構わないと言ったことは言わないでください、といわれたそう。

二人のトークでは、「圧力なんてない、自主規制だ」という森氏の発言があり、小室氏は、差別用語に神経質になる放送業界の人たちに対して、そこに責任を取りたくないという意識が見えるのが嫌だったと話した。

トークの前に上映された森氏の作品の中にも一部伏せられた歌詞があったし、また小室氏は自分は日和見主義だから・・と話しながら、森氏に振ると、表現する際、誰かを傷つけることがないか考えることはあると語った。聞いているうちになんだか矛盾を感じるようになってきて、私はだんだん笑えなくなってしまった。

森氏が、「表現は加害性を持つもので、例えば、キューピー3分クッキングで傷つく人もいるかもしれない」「言葉はいろいろな現象を四捨五入する」と話したこと、小室氏が「批判することは、まわりまわって自分に戻ってくることを自覚したい」と言い、それらの言葉に共感した。

ひとつ書き添えておきたいのは、森氏が話していたことなのだが、義援金詐欺が話題になった時、そのニュースが報道された後、木村太郎氏が「これは、日本人ではないですね」とコメントしたというのだ。森氏は、このことを誰も問題にしなかったことが問題だと言った。

講演後のサイン会で、森達也著『いのちの食べかた』にサインを頂く。小室氏のCDにもサインしてもらい、小室氏にバレンタインのチョコレートを持ってくればよかったなと後悔した。